第2章 嗚呼!それでもあなたはお医者サマ
■医師もフツーの男!? …山下智子(仮名)28歳の場合
「な、いいじゃないか。山下クン。なぁ?」 杉原医師は、すでに酔眼モーロー、目が座っている。 「先生、私、車で来てるンです。また今度…ネ」 「ダメだ。酔ってるから事故でも起こしたら危ない!」 「じゃあ、タクシーで帰りますから」 「それもダメだ!」 ーーちょっとォ〜、何ィ〜よォ、この酔っぱらいッ! 「あのね、先生。実はうちの親が車で迎えに来てンです。駐車場で待ってるンです」 ……と言ってみたところで、今のコノ男にゃ聞こえていないだろーな……。 「ほら、ボクのホテルはあそこだ。ちょっとだけだよ、ちょっとだけ!」 ーーそのチョットが困るンだよねえ、杉原センセー。 杉原医師は、普通の男性よりも小柄で、ヒョロヒョロした痩せっぽっちの男だ。し かし、酔っているときのバカ力で、私の腕を思いっきり掴んだまま、ズルズルとホテ ルまで連れ込もうとする。 「わかった、わかったから手を離して、痛いよ」 私は観念したかのように、杉原医師に言った。 ーーいざとなりゃあ、こんな男、突き倒して逃げりゃいいンだから……。 杉原医師は、私の勤務する信越地方の県立病院の、外科医のピンチヒッターだ。 昔、彼は研修医として県立病院にいたが、今回、外科の医師が学会で病院を留守に するために、その間の2〜3日、外科手術の助っ人でやって来たのだ。しかし、それ も終わり、今日は月一回の外科病棟の飲み会も兼ね、杉原医師の送別会が行われた。 医療現場での杉原医師は、腕も良く患者への態度も好感が持てて、私から見てイイ 医師だと思っていた。 ところが、酒が入ったらこの体たらく、2次会をパスして一人で帰る私を追っかけ てきて、しつっこく自分の宿泊しているホテルに連れ込もうとする。 ネクタイもヨレヨレなら、真っ白だったワイシャツもどこで転んだかドロで汚れ、 シワシワになっている。36歳にしてはすでにハゲの徴候が見え、その薄い髪が乱れた ままの酔ったオジサン姿は、とてもこの医師の子供には見せられない格好だ。 ーーあ〜あ…このセンセー、私の好みじゃないないわネ。私、絶対にベッドに入ら ないぞぉーッ! 杉原医師は、送ったホテルの部屋に入った瞬間、案の定オオカミに変身して、私に ガバッと飛びかかってきた。 バシッ! ……私は間髪おかず、杉原医師の顔を殴った。 ーーやっぱり…ね。センセーったらッ! 私に殴られた杉原医師は、そのままベッドの上に倒れ込んだ。彼は、倒れたまま、 「ほんとに帰るンだな、ほんとにそれでいいンだな〜ッ?」 と、ロレツの回らぬまま、私に脅迫めいたセリフを投げつける。 が、私はそのまま無視、あとも見ないで部屋を飛び出した。 ーーなぁーに言ってンだかッ! 医者がナンボのもんじゃいッ! 次の朝、一緒に飲み会に同席した同じ外科医が、診察室でどこかに電話している様 子だった。 「なに、真面目に帰ったぁ〜? ホントかよぉー」 どうもその電話の相手は、杉原医師のようだ。 電話が終わり、私はその医師に聞く。 「先生、今、杉原先生に電話してたンでしょう?」 「いや〜、夕べの飲み会でふたりして帰ったからね、当然、キミと彼がベッドインし ただろうし、その結果報告を伺おぅかと思って、サ」 「先生、私達、何もありませんでしたよ。失礼ネ!」 「エ〜ッ、やっぱりィ〜そうなの? 杉原クンの言ったことホントだったンだァ…」 医師は、本当にガッカリしていた。 この医師は、飲み会帰りの男と女が何もなく別れるなんて、不自然でおかしいと思 い込んでいるフシがある。 ーーもう〜…こいつら医者は何を考えてンだか。その後どうなった? …なーんて 電話でわざわざ確認なんてするかぁ〜、フツー…。まったくスケベな下心ミエミエ! 医師は、全般的にハッキリ言って、女遊びが大好きだ。 自分で実行するのも大好きならば、他人の女遊びの結果報告を聞くのも大好き。 今回の杉原医師の一件にしても、杉原医師は看護婦と美味しいコトしたんだから、 オレには聞く権利がある。なぜなら、オレは、その飲み会のあと、何も美味しいコト なんかなかったンだから……。 そんな理屈が平然と成り立つのが、医師同士なのかもしれない。 うちの病院は、外科医の場合、大学病院から一年クールで医師が入れ替わる。 そのせいかどうかわからないが、そんな期間限定付きの医師は、大学病院に戻る間 だけ、ちょっと遊んでいこうかな…というスケベ根性の医師が結構多い。 昼間の杉原医師は、植物的な安全パイの男にしか見えなかった。 彼だけは立派な医師…と思っていただけに、私には昨夜の一件がかなりショック! しかし、医師の中には、来るもの拒まず去るものは追わず…と公言してはばからぬ 男もいるぐらいだから、ま、しょーがない、か……! 医師は、たとえ象牙の塔に入っている医師でも、白衣を脱げばタダの男なのです。 ■会社員から医師へ転職した男
医師の仕事は、ある面でツライこともあるが無料奉仕ではない。ゆえに聖職だとは |