●食い意地旅行記 屋台の飯はうまかタイ  NO.4

  2000/2/26 土

     目的も決めてない旅に出たカジンと私。ホテルで飯を食いながらふと思いついて、
     巨大な仏塔があるというナコーン・パトムへ行くことにした。

     渡し船でバンコク・トンブリー地区のノーイ駅まで行って1時30分発の鈍行に乗る。
     1時間半の短い汽車の旅で、乗車券はたったの14バーツ。
     王様系列の鉄道会社のためか、メチャ安い。しかも結構ガラガラな車内で、ラクチンな旅が
     出来そうだ……。
     切符は、それでも30分ほど前から駅の切符売り場で並んで買う。その行列に日本人は見かけない。
     日本のような宅急便が発達してないせいか、地元のタイ人誰もが皆、引っ越しか大旅行のように
     大荷物を抱え込む姿が印象的だった。
     タイ語がまったく判らない私とカジンは、『地球の歩き方』のナコーン・パトムの頁を指さして
     切符を買った。
    
舟やスカイトレインと同じで、ココでも切符は売りっぱなしのシステムだ。
     車中で車掌の検札があるものの、ここの駅には改札口などという物はない。当然、汽車から降りる
     ときは、改札もないのでそのまま降りてくる。
     線路と段差もないプラットホームが2列。人々は線路の上を平気で行き来している。
     ホームでは、地元のオバサンやオネーチャンが3箇所、日本のキヨスクの販売員と違って路上の
     たたき売りの如く、商品を広げ地べたに座り込んでいる。
     地べたに並べてある売り物は、ビールや水、透明のビニール袋に詰めた焼き鳥や、お菓子(日本で
     も売っているトンガリコーンやポテトチップ)の類だ。
     旅と言えば、やっぱりココはお約束の駅弁さッ! …でも無いッ!?
     駅弁らしきものを探すけど、お昼が過ぎていたせいか無い。ホテルの朝食バイキングでしこたま
     食べていて、お腹は空いていない。でも食べてみたかったよぉ〜……がっかり(T_T) 
     でもやっぱり旅のお供の駅弁の代わりがほしくって、しかたなく5本入り焼き鳥20Bと缶ビール
     40Bを買い込んだ。
     車内の座席は全部板張り。いつ掃除したのか汚れて曇ったガラス窓の半分は壊れているようで
     開け閉めの調子が悪い。
     当然、喫煙室など無いし、煙草を吸う人も見かけない。
     1時間半の禁煙かァ〜……内心ため息をつく私。
     発車してしばらくすると、水田の中でガリガリに痩せた黒い水牛をあちらこちらで見かけた。
     ぽわ〜んと突っ立っている。タイでは牛までもがのんびりしてるようだ。しかし、タイの水牛って、
     どうしてあんなに痩せてンだろう???
     流れるような水田風景を横目に、私が焼き鳥をかぶりついてビールを呑んでいたら、
     「この焼き鳥は水牛だぞ」とニマニマ笑いながらカジンは言った。
     いつもなら、さっき見た貧相な水牛を思い浮かべてウッとなる私だが、ココはタイという異国だ。
     平べったい形をした串肉が甘めな醤油味で見た目よりなかなか旨かったので、聞こえないふりを
     してパクパク食べた。

     ナコーン・パトム駅から降りると、まっすぐな大きい白い道の両側に大きい市場があり、駅の前
     には数軒の屋台があった。
     左側が衣料品ばかり山積みされて売られ、右側には見たことのない草っぱみたいな香菜らしきもの、
     魚、色鮮やかなお菓子、緑鮮やかな竹筒に入った餅米? とにかくタイ人の日常食材が山のように
     ぶちまけてあり、なかなか壮観な眺めだ。が、コンビニを発見したときは、ちょっとガッカリ。
     カジンと私は、市場を見物しながら広場のある白い仏塔へ向かう。
     暑い! ムチャクチャ汗が出る!!
     仏塔をぐるりと取り巻く庭には、お参り客であふれていた。高台のせいか、かすかな風が流れて
     いて、しばらくボーッと木陰に座っていると、吹き出した汗がひいていくようだ。
     でも暑いッ!!
     カジンは興味深げにあっちこっちと見学している。
     私は興味深げに2バーツ払ってお寺のトイレに入った。
     しかし、無信心な私は、金ピカな仏像を眺めてもぼんやりとただ眺めているだけ。
   私の頭の中には、駅にたむろった屋台のどこで飯を食うか、
   何を食うかということばかりがグルグル浮かんでいる。

     ああ、それにつけても煙草が吸いたい!
     仏塔見物(ホントか?)も終わり、念願の駅前の屋台でビールと汁ソバで遅い昼食。
     私は、い〜っぱい煙草を吹かせる至福の時。
     汁ソバの麺は春雨のような麺で、白い魚のすり身団子がスープに浮かんでいる。味は、日本の薩摩
     揚げと同じ味だ。ナンプラーや赤唐辛子や砂糖で個々に好みの味付けをして食べる。
     私は、タイのソバが個々に味付け、というところがとても気に入っている。味付けに失敗したらカジンが
     美味しく味付けした丼を奪って食べられるという、とてもお得な面もあるし、ね(⌒‐⌒)
     
     帰りの汽車の時間を調べるが、タイ文字で書かれた時刻表かまったく読めない。駅員に聞いても
     チンプンカンプン……。
     『地球の歩き方』に書かれた「バンコク」のタイ文字と、時刻表に書かれた同じ文字を、絵カルタ
     合わせのように照らし合わせて5時30分発がバンコク行きの最終だとようやく判った。
     日本の列車時刻感覚でいたから、最終時間の早さにビックリだ。
     その時だ、私とカジンの困惑した姿を見るに見かねたのか、30歳くらいのインテリジェンス漂う
     美しいタイ女性が早口の英語で親切に話しかけてきた。
     どーやらバンコク行き最終は5時30分ですよ、と言ってるらしい……。私とカジンは、さも判った
     ふりしてサンキューを何度も言って、ニコニコ笑ってごまかす。
     彼女は、愚鈍な旅人2人に功徳を施したと思ったのか、ニッコリ笑うと、品よく着こなした襟付き
     ワンピースのスカートををひるがえし、その場を去った。

     最終まで1時間以上時間があるので、再度仏塔見学に行くというカジン。私は、再度屋台で時間を
     つぶすことにした。屋台のプラスチックの椅子に座ってボーっとコーラを呑み、同じ汁ソバを食べる。
     その時、赤銅色に日焼けしたオッサンにいきなり話しかけられるが、タイ語なので何を言ってるのか
     サッパリ判らない。

     昼間っから酔っぱらったオッサンは、古めかしい小さなボストンバッグを抱えた10歳くらいの少年連れ
     だ。汗で薄汚れたランニングシャツの少年は、困った様子で顔を伏せたまま葉っぱを炒めたような
     おかずをご飯にのせて食べている(そっちのほーも旨そう…でももう腹一杯だし…)。
     少年の伏せられた顔が今にも泣きそうだ。
     どうやら日本人の女が独りでボケーッと煙草を吹かす姿に、オッサンの好奇心が刺激されたようだ。
     屋台のオバサン達がオッサンをたしなめ、私をチラチラ見て困った様子でそれが判った。
     私ってば、コノ酔っぱらいのオッサンになつかれて(絡まれて?)いるの!?
     ーーーこんな時、私が少しでもタイ語を話せたらいいのになァ……。
     根がタチの悪い酔っぱらいの私、オッサンの気持ちが手に取るように分かるので、私は、よっぽど
     ビールを頼んで、身振り手振りの会話で一緒に呑もうかと思った。が、汽車の時間もない。
     もし、私がオッサンと呑んでいるところをカジンに発見されたら、「時間がないのに!」と、
     すごぉ〜く恐い顔をしたカジンを想像するとそれも出来なくて、仕様がないので、カジンが戻るまで、
     そのままオッサンをシカトすることにした。
     
     途中の小さな駅で、少年の駅弁売りが走りかけた列車のデッキに、駅弁を乗せたトレー片手に、
     器用な動作でサーッと飛び乗って来た。とーぜん切符なんて買ってないンだろうなァ。
     私は、ついに念願だった駅弁を、その少年に20B也を支払って買った。
     2つ先の席には、現地で知り合ったらしい日本人の若い男女達がいてなかなか賑やかだ。その大阪
     の学生グループの二組6人も、同じように駅弁を少年から買っている。
     白い発泡スチロールに入った駅弁は、タイ飯の上になんだか判らない挽肉で甘がらく味付けした
     ものがいっぱい散らしてあり、その上に目玉焼きがのっている。

     おもちゃのようなプラスチックのスプーンとフォーク。輪ゴムでくくった小さなビニール袋の液体唐辛子。
     これらをラップでくるんだだけのシンプルなお弁当だ。
     駅弁といえば日本の幕の内弁当がインプットされている私には、とんでもなく簡単でちゃちな代物に
     見えた。
     汁ソバで腹一杯な私はそれでも、呆れるカジンを尻目に、その駅弁を好奇心のみで無理矢理食う。
     うーむ……イマイチな味ねェ〜……。
     ふと気がつくと、男の学生がデッキで煙草を吸っているではないか!?
     デッキでなら喫煙はOKなンだぁ〜(は〜と)!!
     即、煙草を飲みに行く。とたんに楽しい旅気分になってきた。私はゲンキンな奴さッ♪
     デッキの入り口の席に、先ほどの駅弁売りの少年と、先輩格の青年が座席に座って何やら
     お喋りをしている。
     車内販売のノルマが達成したのか、手元にいくつか残っているお弁当を他の車両に売り歩く気は
     まったくなさそうな、屈託のない少年の顔。
     何気なく目があった2人に1本ずつ煙草を渡すと、青年のほうが大事そうに胸ポケットにしまい込み、
     少年はニッコリして美味しそうに吸い出した。
     ウーン、かなり吸い慣れた手つきだなぁ…。
     その光景を見ていた女子学生の1人が、2本目を少年に煙草を渡そうとするが、彼は笑顔で断っていた。
     ーーーふっ、勝ったネ、って……私。……何に?

     バンコクが近づくに連れて、汽車のスピードがだんだん落ちてきた。
     出発時、初めての汽車の旅で緊張していたせいで見落としていたものが、帰路では、見慣れない風景と
     して映って見える。しかし、何故かとても懐かしく思えた。
     流れる景色は、水田風景から線路沿いに続く長屋らしき家々の光景に変わって行く。
     行きには気付かなかった、夕闇の迫った様々な家庭の中が列車の窓越しに覗けた。
     夕飯の支度なのか、主婦が忙しそうに水くみなどをしている。ダンナらしき男は寝そべってテレビを
     見ている。子供は外で遊び回っている。若いニーチャンは、庭に椅子を持ち出し、その上に立派な
     ラジカセを置き、大きな音で音楽を流していた。きっと高価なラジカセなので、隣近所、走る汽車の乗客
     達にも見せびらかしたいのかもしれない。
     ノーイ駅は、昼間より人々でごった返していた。
     乗合船は、勤め帰りのタイ人と、観光客の欧米人達とで一杯だ。
     私とカジンは、渡し船に少し慣れてきたこともあり、無事にラーチャウォンの船着き場へたどり着いた。
     しかし、その後、ホテルまで遠いと思って50バーツも払って乗ったトゥクトゥクだが、実は、ホテルまで
     徒歩10分もかからない距離だと降りたとき判った。
     コレって、一種のボラれたってヤツぅぅぅ……!?
     
     気を取り直したその夜は、カジン念願だったチャイナタウンの屋台での食事。
     ガイヤーン、海老焼き、なんか判らない炒め物ドッチャリ。どれも旨くて箸がすすみ、食欲に誘われ思わず
     メコンウィスキーをいつもの量以上にグビグビ……。
     カジンにとっては、タイ入国以来、初の終始ご機嫌な夜だった…(^-^)

   

ひたすらタイ!?