| どんちゃいるどの愉快な夜 |
六 お掃除おばちゃん
街路樹のプラタナスの葉っぱが散り始め、ときおり寒さが身に染みる季節になりま
すと、街闇に潤む〈どんちゃいるど〉の灯が歩道橋の階段の向こうに、ひときわ人
恋しさをにじませながら灯っているのを見つけるたびに、“はやく店に入ろう”とい
う私たちの歩調はいっそう逸ったものになります。
その夜、私は八時過ぎに店に来たのですが、まだ開店してから三十分しか経ってお
らず、バイトのマヨさんとコダマさんが慌ただしくカウンターの内外を片付けている
最中で、私が入っていくなり、
「あ、バイクちゃん。今日は店開けがおそくって、いまから氷を割るから、ボトル、
棚から下ろして自分で飲んでてよ。
出掛ける前に、マホさんとけんかしちまったからお通しができてないんだ」
と、コダマさんが釈明しました。
コダマさんは、料理の材料や花瓶に飾る花などを途中で買って、五○ccバイクで
運んでくるのが日課です。そのため、毎晩店がハねた後、明日のために歩道に留めて
あるバイクを運転して帰る必要があるのですが、いつも酒を飲んでしまうため結局タ
クシーを拾って帰る羽目になり、いろいろと苦労がたえないのです。
そうこうしているうちに、がやがやと入ってくる人たちがありました。それは、ク
コちゃん、シラカミ君、スグリ君の三人で、
「いゃ〜ァ、憂歌団のキィ坊は天才だね。
ライブの舞台に登場したときは、タコ八郎のようによろめいて出てきたけど、み、
み、みんなァ、げ、げ、元気か〜、と挨拶して歌い出した『お掃除おばちゃん』には、
俺、痺れちゃったよ」
というクコちゃんの感想に、
「キィ坊の凄さがいま頃になって分かったんですか?
クコさんは化石のような人ですね…」
と、シラカミ君がからかいました。
「仕方がないだろ。俺、フォーク・グループの音楽、全然聞いてなかったんだから…」
「いったい何を聞いてたんですか?
あの頃、フォークの曲を聞かなければ、それって青春がない、てことと同じになり
ますよ」
「女の歌手のニューミュージックは、新しい感性だと思ってよく聞いてたけど、男の
フォーク・グループは単純すぎてなァ…」
「単純だと思うのが、感性の鈍さですよ。
現にこの憂歌団だって、聞いてみれば、凄い、て分かったでしょ?」
クコちゃんとシラカミ君が応酬しているのをスグリ君は黙って、満足そうな顔をして
聞いていました。このチケットは、憂歌団の大ファンであるスグリ君が苦心して入手し
たものらしく、こうして一緒にライブに出かけた仲間がコンサートの感想をまくし立て
るのを聞くのは、苦労の甲斐があったというものでいい気持ちなのでしょう。
コダマさんも話に割り込みたいのですが、自分自身が参加しないコンサートなどは楽
しめない性癖ですので、
「サユリの『生駒』は名曲だ。でも、CDの中には採録されていないから、スグリ君の
持ってきた憂歌団のCDはつまらない」
と、ピント外れのコメントで我慢しています。
そこへ、お医者さんのショウキさん夫婦と見なれぬ女の子を連れたナツメちゃんが相
前後して入ってきました。
見知らぬ女の子に対しては目がないコダマさんが早速、
「ナツメ、この方はどういう人なの?
ナツメは、僕でない若い男にはすぐ興味を持つけど、こうして友達を連れてきて店に
奉仕したことは一度もなかったからなァ…」
と賛辞を呈しています。
「アゲハちゃん、ていう高校時代からの親友よ」
と答えるナツメちゃんに、
「そうか、アゲハの長い髪の毛は、僕らの店のイメージにぴったりだ。
ナツメは男の子みたいだから、店のイメージにはならないッ」
と、暴言のダメ押しをしかけていますと、クコちゃんが、
「コヌレ君の川柳に、
ナツメちゃん ここの店では福娘……ていうひねった奴があったなァ」
と、他人の褌を借りてコダマさんの意見を是認しました。
「そうだ。思えばあの頃は、女の子はナツメしかいなくて、僕らは必死でナツメをフォ
ローしてた。ナツメがいなくなったら死んだように活気のない店になる、という恐怖と、
僕らは日夜戦ってたんだ……」
と、コダマさんは感慨深げにいいますと、
「別に、活気はあったじゃないか。
シャチ子はいつも来てたし、外に女の常連もコンスタントに入ってた。ただ、女子大
生がいない、ていうだけじゃなかったの?」
クコちゃんが文句を付けます。
「いや、問題は、僕らが活き活きと店をやれるか、ということだ。
年くった常連だけでは店を維持していく気力が萎えてしまう。それが、クコちゃんに
は分からないのか?」
例によって例の如く、自分勝手で虫のいい反論をしました。
「でも、こうしてアゲハちゃんが来たことだし、コダマさん、今日は万、万歳だね。
ところで、アゲハちゃん、君は何学部出身なの?」
と、クコちゃんが鉾先を変えますと、
「文学部です。三島由紀夫を専攻しました」
と、きっぱりした口調で答えました。
「ミシマユキオって、あの自衛隊で首を刎ねられた、あの三島由紀夫か?」
「コダマさん、馬鹿だなァ。それ以外の三島由紀夫、ているの?」
クコちゃんが嘲って切り返しますと、
「僕だって、三島が右翼の作家だ、てことはよく知ってる。
本当の右翼は天皇のために切腹する、というのは、みんなが知ってる有名な事実だ。
僕は左翼だがチンピラだから、切腹する心情はよ〜く分かる。
クコちゃん、僕に知識がないってバカにすると、たまにはこうやって手痛いしっぺ
返しを食らうことがあるから、以後よく注意しておくよ〜に!」
コダマさんの誇らし気な反駁です。
これらの話を日本酒を飲みながら気持ち良さそうに聞いていたシラカミ君が、
「『憂国』ていう映画、知ってます?
三島本人が主演して、2・26の将校に扮し、クーデタの責任を取って国家のため
に自害するシーンがあるんです。
あの事件では、この映画の虚構をなぞるようにほんとに割腹を実践して三島は死ん
だのですから、それは、作品を完成するためには自らの死をも厭わない芸術家の真骨
頂とでもいうべき壮挙で、僕は、テロリズム、ていう観点から見て、殉死の思想に生
きた三島由紀夫のことを尊敬してますよ」
と、長ったらしい意見を述べました。
「虚構、ていうけど、すべての現実は虚構かもしれない」
哲学者を自認するクコちゃんが、言い古された屁理屈をこねますと、
「クコさん、それでは、この世は全て幻だ、ていう味もそっけもない唯幻論に帰結し
て、議論が行き止まりになります。
だいたいクコさんと議論していると、いっつもどこかに抹っ香臭いニヒリズムが忍
び込んで、所詮はどうなってもどうなるもんじゃない、一切は無だ、という無気力な
結論が出され、僕はイライラした不快な気分になることが多い。
クコさん、やっぱり人間にはある種の、理想を追求するというモラルへの意志が、
絶対必要なんじゃありません?
それが、革命の原点だったり、三島の永訣の夢だったりするんです。
僕が、みんなに嫌われているテロリズムへと思想的なシンパシーを寄せるのは、そ
のなかに仏教的なニヒリズムではなく、理想への夢を含むものがある、と信じている
からですよ……」
なかなか聞いていて、理路一貫しており、クコちゃんがこれに対して何と答えるの
か、と注目していましたら、
「三島のは、一種の心中じゃないのか」
と、お医者のショウキさんがコメントをさし挟みました。
いままで、三島研究者のアゲハちゃんをそっちのけにして店の常連たちが三島につ
いて床屋談義してるのを呆れたような顔して眺めていた当のアゲハちゃんが、
「私のは、最新の同性愛研究の成果を踏まえて三島の具体的なテキストを横断してク
リティックする方法です。
記号論的なやり方ですので、テキストの登場人物の通俗的な発話内容などを解釈す
るのではなく、繰り返して出てくるイメージの頻度とか、言葉そのものに含まれる作
者には無意識な意味内容とか、そういう個々のシンボルを分析するのです。
例えば三島は、天狗、という言葉をキィワードのように使っていますが、『天狗道』
というエッセーのなかの天狗は、天界の架空存在というだけではなく、芸術家の比喩
として使われ、普通の人々の幸福には決して入り込めない芸術家の羨望=潜望鏡とし
て、赤く伸びていく天狗の鼻のイメージが採用されたりするのです」
と、折り目正しく自分の研究の一端を披露しました。
すると同時に、クコちゃんとシラカミ君から声が挙がりました。
「いまの、センボウ、てのは駄ジャレだったんですね。アゲハさんは、僕よりうまい
洒落が言えるんだ!」
こう叫んだのはシラカミ君です。
「声の小さい方が、後手に回っちゃう。
シラカミ君は、巨体から大声を繰り出すからなァ。
俺、今のアゲハちゃんの説に質問したい。
天狗、または天狗の鼻の、シンボリックな意味内容ッて、何なの?」
クコちゃんの声は、鼻の下が伸びた声になっています。
「そうだね。天狗生板ショー、ていうのがストリップ劇場の定番にあったしな」
ショウキさんが中年らしく、クコちゃんの質問を補強しました。
「なんですか、クコさん、ショウキさん。
アゲハさんが、顔を真っ赤にしてるじゃありませんか。
そんな卑猥な質問はおじさんの専売特許だから、やめてくださいッ」
「そうだ。シラカミの言うとおりだ。
ここの店では猥談は禁じられている。ショウキさんもクコちゃんも、猥談したいな
ら、どっかよその店でやってくれ。
それに、文学論といっても、ホモのことを論ずるのならそれは僕らの嫌いな話題だ
し、アゲハちゃんたちも不快だろう。もっと、生身のことを話題にしよう」
話に入り込みたくて、口をもごもごさせていたコダマさんが、ここぞ、とばかりま
くし立てますと、
「生身といえば、俺がシラカミ君とストリップ劇場に行ったとき、結構凄いショーが
演じられて、ストリップ嬢としては年くった痩せぎすのおばさんが出てきたのに、場
内割れんばかりの拍手が湧いた。
何かと思ったら、そのストリッパーは舞台の縁にそって大股開きしながらずーっと
ゆっくり移動してくる。かぶりつきの客一人一人に手袋とかを渡していたんで目を凝
らしてみていると、なんと、彼女はあそこで客の拳を手首まで呑み込んでみせ、拍手
喝采を浴びていたんだ。
シラカミ君、彼女が自分の前に来たとき、喜色満面に浮かべて、フィスト・ファッ
クしたっけなあ……」
このクコちゃんの暴露に対してシラカミ君は、
「クコさん。偉そうに解説するけど、おばちゃんが僕達の席へ近付いてきたとき、ク
コさんは慌てて、屁ぴり腰になって僕の後ろに隠れたことを言わないんですか?」
と、意地悪そうな目をしながらクコちゃんの方を見て、こう言いました。
すると脇から、
「なんだ、シラカミ君。君はそんな人権無視のスケベ行為をやったのか!
それはこの前聞いた某君の、会社の仲間とやった乱交パーティよりも、もっと非道
いことだ…」
ヒューマニストのコダマさんが叫んで非難しましたので、応酬合戦の好きなシラカ
ミ君はいっそう興奮して、
「ストリップは一種の様式化された即興舞台です!
そこでは、何が起こっても不思議ではありません!
それなのに、芸術的感受性がゼロのコダマさんから見たこともない舞台のことで非
難されるなんて、そんな筋合いは僕にはないッ」
と、奇妙な風に自己正当化を含んだ切り返しをコダマさんに食らわせましたので、
「なんだ、なんだ!
シラカミ君は、僕らと違って格好いい言葉が吐けるので、若い女の子がすぐ惚れて
しまう。
アゲハちゃん、シラカミ君の言葉に惑わされて好きになっちゃダメだぞ。
感受性ゼロでも、僕らには誠意がある。
いま、シラカミ君は無職で、持ってる金が尽きたらゼゲンをやる、ていってるから、
君は警戒しなくちゃならないッ」
あること、ないことを全部ぶっつけて、シラカミくんを誹謗しました。
もう、何杯もコップ酒を重ねて、かなり酔っぱらっていたシラカミ君は、これらの
コダマさんの言葉に激発し、得意のせりふ、
「僕はどうして、こんな所にいるんだッ!」
を、吐き棄てるように言うと、
「深夜映画を観にいこう」
と、プイッと席を立ち、一人で飛び出して行ったのでした。
「おい、シラカミ君!」
まだいい足りないコダマさんが背後から声を掛けたのですが、もう姿は見えません。
「彼は、幸せそうだがエネルギーの乏しい村の会合の場に、疾風のように現れて、荒
らぶる神のように去ってゆくんだ」
クコちゃんが、このはた迷惑なシラカミ君の気紛れ行動を弁護しますと、
「単なる駄々っ子じみた自分勝手な行動じゃない。そんなエラそうなものじゃないわ」
マヨさんの冷静な意見の方が、私には正しいように思えたのでした。
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七 こしひかり音頭
街なかは丁度忘年会の真っ盛り、歩道を歩いていると道いっぱいに若い男女の群れ
が広がり、その各々が、次にゆく店のことや抜け駆けの手筈とかを企んで、通せん
ぼしているのにぶつかることがよくあります。
その群れの合間を縫って直進するのはなかなか難しく、私のような街の小市民はそ
れを横目に見ながらチッと舌打ちし、傍を迂回することになるのです。
このようにしてターミナルから店に辿りついたのは、私が店に入る定刻の、午後九
時のことでした。
内に入るなり耳に飛び込んできたのは、かなり興奮したコダマさんの大声です。
「僕は学問とか知識がないから、そんな言葉は知らなかった。はっきり包茎手術、て
いえば僕にも分かった!」
なにごとならん、と思って隣席のスグリ君に訊ねますと、
「いつものオーバァなコダマさん流の反応ですよ。
クマネコさんがマレーシアで仕事をしてた頃の話をして、…割礼しなけりゃならな
くなって大変だった…、てことをおもしろおかしく脚色しながら話していたら、コダ
マさんが“割礼”て何だ?て訊いたんで、みんなにやにや笑いながらコダマさんの顔
を見てたら、こんな風に怒り出したんですよ…」
と言いました。
「それは、クコちゃんがいちばん悪いッ。
スグリ君やマヨですら知ってることを僕が知らなかったのは、僕の不覚だ。
だが、僕の質問に答えた後、嘲るような口調でクコちゃんが、『これだから、コダ
マさんは無知蒙昧ッて言われるんだ!』て付け加えたもんだから、僕は激怒した。
これは、正当防衛の怒りだッ!」
コダマさんはまだ、息巻いています。
「あんなに切実でユーモラスな話をクマネコさんがしてるのに、脇から水さすように
邪魔を入れたから、俺が、皆を代表してコダマさんを成敗してくれたッ。化けて出て、
ぴぃぴぃ泣くでないぞッ!」
クコちゃんはあくまでふざけた物言いをして、コダマさんを挑発しています。
「今来たバイクさんと、おぼこ娘のナツメちゃんのために、クマネコ君、もう一度い
まの話、してやってよ……」
クマネコさんの上司の通称モネさんが、丸っこい身体のクマネコさんを催促します
と、
「また、恥ずかしい話を繰り返すんですか?
人聞き悪いなァ。
でも、マヨさんとナツメちゃんがいるから僕が経験した男の悲しさをもう一度、話
しちゃおうかな…」
「ねえ、もう一度、話してよ…」とマヨさんもおねだりしたので、「では」と言って
話し始めたのは次のような話です。
…木材の積み出しの仕事で、自分がマレーシアに出かけたとき、自分はマレーシアの
女に惚れてしまった。
ところが、マレーシアは回教国だから、女と結婚するためには男は回教徒でなけれ
ばならない。それは自分が改宗すればOKの出る簡単なことだったが、難問は回教徒
の資格として割礼した男性自身を保有していなければならないということだ。
シンガポールに専門の医者がいたので、自分は出かけて行って手術した。二、三日
安静にしておくように、という医者の忠告を無視して翌日から働いたら、血がにじん
で大事なものが化膿し、にっちもさっちもいかなくなった。それがようやく治った頃、
今度はインドネシアの方に急ぎの仕事ができ、その仕事をし終えて海峡を渡って戻っ
てきたら、もうその女はいなくなっていた。
これが自分の、踏んだり蹴ったりのひどい体験だ……
こういう話を愉快なタッチでクマネコさんがしゃべっている間に、コダマさんがガ
スの火でししゃもを焼いて出してくれました。
「北海道のうまいししゃもだよ」と強調して出してきたその一匹に私がパクリッと食
いつきますと、それは表面が焦げているのに中はひんやりしています。子持ちししゃ
もの火が通った香ばしい舌触りではなく、卵のつぶつぶが生生と口の中に広がったの
で、
「なに、これ。ぜんぜん生じゃないですか。私、ダメなんですよ。吐きそうだッ!」
と、文句を言いますと、
「見た目には焼けてるじゃないか、うまそうに…文句をいうのなら、僕は出さない」
と言うなり、パクッと残りの三匹を口に放り込み、
「なんだ。少し生だけどうまいじゃないか」
私を唖然とさせるようなことを、平気で言っています。
コダマさんはこういう味覚と胃袋をもった人だったのか!
そこへ、かなり酔っ払ったショウキさんが入ってきて、後ろから奥さんが、
「これ、田舎から送ってきた牛タンの薫製ですけど、おすそ分けに……」
と言いました。
「こっちは、忘年会のおみやげのお鮨。
みんなで食べて…コダマさん、お皿と醤油を出して……」
入る早々、ショウキさんが店を仕切っています。
「ショウキさん、持ち込みは禁止だよ」
仕切られることが大っ嫌いなコダマさんはこのショウキさんの大盤振舞に盛んに文
句を言いましたが、鮨はもう包みごとカウンターの上を移動しており、皆、コダマさ
んの文句を無視して食いはじめたので、
「ショウキさんは医者で、舌が肥えているから旨いものを持ち込み、みんなの食い意
地を刺激する。僕らは貧乏だから、あるものは何でも食ってきた。僕らは胃袋のため
に味を犠牲にしてきた。例えば、結婚する前のイチゴ君は、仕送りの米が尽きたら残
りの半月はインスタントラーメンで凌ぐような生活をしてたから、僕らは彼を大切に
した。
イチゴ君が望郷の気持ちをこめて『こしひかり音頭』を唄ったとき、僕らは彼の飢
えた胃袋をよく理解したんだ……」
「でも、イチゴ君は農家出身だから、野菜の旨さは抜群に知っていたよ」
同じ大学のワンゲル仲間だったコヌレ君がコダマさんの変な断定に異をとなえ、こ
う抗議しました。
「田舎の出身者は本当の食べ物の味を知っているんだぜ」
クコちゃんが畳みかけます。
「そうやって、みんなで僕をバカにするが、僕らは田舎にない経験をしてきたんだぞ。
僕ら都会のチンピラは、つるんで女の子をナンパしては、ときには僕が好きになっ
た女の子を先輩に取られたことはあったけど(そのとき女の子が…ハデ坊、ごめんね
…てあやまったんだ、うぐぐ〜)、とにかく女の子と遊ぶ青春はたっぷり楽しんでき
た。
ショウキさんは地方だから、僕らみたいなナンパができなかったでしょ?」
奥さんが横にいるためうかつなことが言えないショウキさんに、昔自慢をして威張
っています。
すると、扉が開き、のそりとシラカミ君が入ってきました。
浮かぬ顔をしていましたので、
「シラカミ君、どうした。女にフられて落ち込んでるのか?」
絶好調になったコダマさんが得意の野次をとばしますと、
「パチンコで、有金をすってしまって……」
シラカミ君は、意気の上がらない声でこう答えました。
「それじゃァ、ツケで飲めばいいだろう。 師匠のクコちゃんに借りてもいいし…」
弱っている者を叩くときは、すこぶる快調になるコダマさんの提案です。
「シラカミさん、このまえの競艇の儲けはどうしたんですか?」
つい先日、一緒に競艇に行って、クコちゃんは大損したけど、自分とシラカミ君は
50倍の大穴をとることができ、大いに幸せ気分を味わったスグリ君がこう訊きます
と、
「どうしたもこうしたも、あの晩クコさんが悔しさ丸出しの顔をしてたから、一緒に
飲んであげてパ〜ッと使っちゃいましたよ。
どうして、僕には金がついて回らないのだろう?」
こう言って嘆いています。
「俺、ギャンブルファンだけど、どうも引きが弱くてねェ。
それはシラカミ君も同ンなじだしな。
昔昔、イチゴ君が極貧生活のまま年を越そうとしたとき、ちょうどドンチャのクリ
スマスの翌日が有馬記念で、みんなで馬券を購入したことを覚えてないかい?
そのときイチゴ君は、なけなしの千円を自分の誕生日の2〜8に投入した。
その際、まとめて馬券購入に走ったサルノ君たちにシラカミ君は…ゾロ目以外の最
高オッズの馬券を買ってください…て頼んだのにサルノ君たちはそれを忘れて、ゾロ
目の最高倍率を購入しちまった。
で、結果、その年の有馬記念はイチゴ君の誕生日馬券で決まり、73倍もついた。
これって、まともならシラカミ君が頼んだ馬券だったのに不運はついて回るんだよな
ァ。
おかげでイチゴ君は越冬でき、シラカミ君はどうしたんだっけ、あの冬?」
クコちゃんが長い昔語りをしますと、
「それから、女にフられたんですよ。どうせ僕はついてませんから…」
シラカミ君がすねた言い方で答えました。
こんな風にして師走の夜は更けていきましたが、コダマさんは一週間後に店のクリ
スマスを控えているため…今年は何人女の子がくるだろうか?…と考えていて、気も
そぞろなのです。
「シラカミ君、いま失業中なんだから、今年のクリスマスを手伝ってくれよ」
コダマさんがこう依頼すると、失業中という断定にムッとしたシラカミ君が、
「僕は今、書く方に専念しているんで、あまり店のことにはタッチしたくありません」
といって拒否しました。
「そうは言っても、書いたものが金になる訳じゃないから、バイトとして手伝ってく
れたっていいだろう?」
低姿勢の言葉のようですが、実は厚かましい調子があり、それに鋭く反応したシラ
カミ君が、
「別に、僕はお金は持ってます。ないのは今晩だけですから、ルンペンのように言わ
ないでくださいッ」
と切り替えしたので、
「じゃ、きょうのツケはやめだ。シラカミ君、きょうの分と今月のツケ、払ってくれ
よな」
脅迫のような言葉です。
「わかりました。すぐ払います。でも、こんな風にいわれたら、僕はもう来れません。
明日にでも、お昼にコダマさんに返しますから、もう今晩は帰りますッ」
きっぱりいい切って、ドアを開け、さっと外へ出て行きました。
あとに残された者は幸せ気分が雲散霧消してしまったので、クコちやんが一言、
「きょうは、コダマさんが一方的に悪い。ああいわれたら、誰だって立つ瀬がなくな
るぜ」
と、コダマさんの押し付けがましさを責めますと、酒場のみんなも…そうだ、そう
だ…という顔をしてふんふん頷いているのが、私には印象的な光景でした。

八 なごり雪
私がこの店に来るようになって、もうすぐ一年になります。ほんとにアッという間
に一年が過ぎて、私の夜もこの店のワイワイガヤガヤという喧騒のなかへ消滅してゆ
き、まったく夢を見ているような時間でした。
今晩はコダマさん四○才の誕生日です。
でも、予定の女の子はまだ誰も来ず、変わり映えのしない男の常連達がカウンター
の周りでとぐろを巻いて飲んでいる光景にうんざりしたコダマさんが、
「親切心で、バレンタイン・ディと僕の誕生日を同じ日に企画したのにッ。
なんだよ、あいつらは!
今日は二月一○日なんだぜ。本物のバレンタイン・ディだったら、本命の彼氏に会
ってても許せるけど、偽物の日じゃないか!
大体、僕の誕生日をすっぽかして来ないなんて、なんとも薄情な女たちだよ…」
と息巻きますと、…又、下らぬことをボやいてる、という顔でコヌレ君が、
「うるさいおじさんの誕生日に、わざわざ義理のチョコ買って店に来る女の子の身に
なってみれば?
傍から見たってアホらしいのに、本人にはドツボの極みだよ…」
本当に、アホらしいなァ〜という顔をしてコメントしました。
「クソッ、もう女なんか信じないぞ!」
というコダマさんの絶叫が店中に響き渡るや、計ったように店の扉が開き、
「あれ?あたしが一番乗りなんですかァ?他に誰も来てないんですか〜?」
待ちに待っていたナツメちゃんがようやく姿を現したので、今まで苦り切っていた
コダマさんの顔がパッと明るく輝き、
「ようやく来た!もう、誰も来ないのか、て思ってた!
で、そっちのお連れはお友達?」
ナツメちゃんが二人、同い年くらいの女の子を連れてきたので、今泣いたカラスの
関心は、もう、そちらの方へ向いています。
「こちらは会社の先輩のスモモさん。それから、こちらはアザミちゃん……。
そうだ、コダマさん、お誕生日おめでとうございます。はい、三人からのチョコレ
ートのプレゼントよ。手紙も挟んでるわ…」
「そ、そうか。僕は報いられたか!」
コダマさんは嬉しくて、涙を流さんばかりに感激して言いました。
そうこうしていると、予定の女の子達もいつしか全員集合し、店内は大活況を呈し
始めました。熱烈歓迎の際にはいつでもたくさん購入しておくフルーツ(コダマさん
はフルーチュ、と発音します)が大盤振舞され、シャンパンの栓も抜かれて、誕生日
&バレンタイン・ディが佳境に入った頃、
「おお!大入り満員だな。これは二階で飲むしかないか!」
そう言いながら酔っ払って闖入してきたのは、クコちゃん、コリさんの二人連れで
す。
「遅いじゃないか。もう階段には座れないしみんな二階に上がって騒いでくれ……」
コダマさんが上機嫌でこう言いました。
私も今来た二階グループに加わり、五、六人がそれぞれ自分のグラスとボトルを手
にして店の二階に上がっていきました。
二階は当然、一階と同じ広さ(狭さ?)ですが、カウンターがない分、多くの人が
座れる造りになっています。
長方形スペースの右側の壁に座席部分が出っ張り、詰めるとそこは五人掛け、対面
の窓際には二人分、テーブルを挟んで左に四、五脚の椅子が配置され(椅子といって
も座るだけの背もたれもないチンケなものですが)、全体をフル活用すれば一応十人
強の人数が収容できる空間なのです。
上に上がった面子は、クコちゃんとコリさん、私とコヌレ君、最近遅い時間によく
現れる正体不明の女性コオロギさん、それにスグリ君です。
コダマさんは下でナツメちゃん達を独占でき、口の悪い邪魔者たちは追っ払って楽
しい歌合戦をはじめた様子です。
「ちょうどいいや。ゆっくり話の続きがしたい、て思ってたんだ……」
コリさんがこう言うと、
「そうだよな。くる早々から『ゲイシャワルツ』を前座で歌わされたんじゃ、コリさ
んがかわいそうだ…」
クコちゃんが相槌を打っています。
「この前のたんこぶ、コリさん、治ったの?
あんなに木刀でぼかすか殴られてどうなるもんかって、俺、ひやひやしたぜ」
「二、三日、ズキズキ痛んだけど、脹れの引いた後はどうもないみたいだよ。
それにしても、あれは災難だったなァ…」
自分の頭のたんこぶの痕を撫でてながらコリさんがこう言ったので、好奇心に駆ら
れた私が、
「どうしたのですか?木刀で殴られるなんて穏やかじゃありませんね」
と訊ねますと、
「バイクさん。半月ほど前に大雪が降ったでしょう。あの日、コリさんと二人で、ド
ヤ街へ遊びに行ったんですよ。
昼間はその辺の店で酒を飲んで愉快に過ごしたんだけど、コリさんが、『クコさん、
今晩ここに泊まろう』て言い出して、俺はあんまり気がすすまなかったけど、コリさ
んが、『泊まろう、泊まろう…』て、強く言うもんだから、つい……」
と、前置きの自己弁護をしながらクコちゃんが話したのは、次のようなことです。
…その夜は、二段ベッドが二組置いてある四人部屋に宿泊した。こういうドヤ街は長
期滞在者がたくさん泊まっており、相部屋の人もそうらしかった。一泊千円だから、
ほとんど定住者のような人もいる。だけど、御察しの通り、ここには女っ気が全くな
い。賄いのおばちゃんぐらいしかいない。
さて、その四つのベッドのうち下の二つが空いていた。上の一つには先客が寝てお
り、もう一つはまだ帰っていなかった。
俺たちが下のベッドにもぐり込んで寝ていると、深夜、空いていたベッドの住人が
酒の臭いをぷんぷんさせて戻ってきた。そして突然…なんだァ!おまえは!まだここ
にいやがったのかァ!と、訳の分からぬ叫び声を男は発して木刀を掴むや、寝ていた
コリさんを思いっ切り殴りはじめたんだ。
「おい、人違いだ!よく見ろ、俺は違う!」
殴られながらコリさんが必死で抗弁したら件の酔っぱらいは、あれ?て狐につまま
れたような顔付きになり、木刀を振るう手を止めた。それでも、酔っぱらいの脳天ま
で逆流した血はまだ治まらないようで、はあはあ肩で息していて危ない。
それから奴は、ベッドに上がって寝たが、下に寝ている俺たちは、いつまた奴の木
刀が飛んでくるか考えるとおちおち眠っちゃいられなかった。
結局コリさんの殴られ損で、夜が明ける前にそのドヤから脱出したんだよ……
「クコちゃん、コリさんを助けなかったの?一緒になってやっつけるとかして…」
コヌレ君が質問すると、
「それが一瞬のことだったので…俺、暴力に弱いから…」
などと、言い澱んでいます。
「なにはともあれ、クコさんが殴られなくてよかったよ」
コリさんが兄貴風を吹かして、鷹揚に答えたので、クコちゃんは面目丸潰れ、とい
う顔をしました。
それからコリさんの独演会がはじまりました。草津温泉の正体不明の人達の珍奇な
振舞を語り、行き付けの飲み屋で目撃したどじなごきぶり…畳の目に脚をとられて動
けなくなり客から冷笑されつつ何日間も放置され、ついに干乾びちまった哀れなごき
ぶりの物語を綿々と語り、そうして話題は、甘美な過去の恋物語から薄情な女への恨
み言などあちらこちらへ飛び回り、かなり酔っぱらった末に、
「いま好きになったサヨリちゃんに、どうプロポーズしたらいいだろう…」
溜め息をつきながら、ちょっと暗い顔をして誰にいうともなく、こう言いました。
「だから、さ、コリさん一人で行っても会ってくれないんだから、親友のヤギリさん
に仲介をとってもらい、正式に申し込むしか手がないッて、コリさん、さっきから自
分でそう言っているじゃないの…」
さんざん愚痴られて聞き飽きた、といわんばかりにクコちゃんがうんざりした口調
で答えますと、
「最初はグループ全体で、俺らのプロポーズを応援してくれたのに、三度目くらいの
集まりからは俺らをサヨリさんから遠ざけようとしやがった。
なんだ、ちくしょう!彼奴ら、俺らを中年のアッシー君だと思って、便利なときだ
けちやほやしやがったんだ!
俺ら、離れてたら恋心がだんぜん募ってくるタイプの人間なのによ〜ォ」
コリさんの嘆きは、傍で聞いていると、可哀そうではなく、ユーモラスなものです。
「だから、ねえ、コリさん。そのサヨリっていう女の人にも問題があるんじゃないの?
コリさんのことを便利なキープ君だ、と勘違いして利用してたら、どっこいコリさ
んの猛烈アタックが開始され、目算が狂ったので大慌てでバリアーを張ったんじゃな
いの?」
クコちゃんの意見は客観的なようですが、どこか冷めていて薄情なトーンを帯びて
いるように感じられました。
「そうじゃないんだよ、クコさん。彼女はいい娘なんだ。周りが悪いんだよ。親とか、
グループの連中とか…」
「ちぇッ、コリさんは!素人の女の子相手だと、たちまち恋する乙女の精神年齢まで
退行しちまうんだから!
相手が逆にとまどっちまうんだぜ…わたしの相手は、ステキなおじ様じゃなかった
の?こんなにきかん坊だったの?…てさ。
だいたい、玄人の女を相手するときはあんなに自由自在に、仕事の終わったソープ
嬢から深夜の飲み会に誘われるほど気さくに付き合えるに、どうして素人が相手だと
こうなるんだろう?
もういっそのこと、気に入った玄人の女性を嫁にもらったら、どう?」
クコちゃんがずけずけものを言ったので、恋するコリさんに気の毒な決め付けだな
あ、と思って聞いていますと、今まで黙っていたコオロギさんが遠慮がちに、
「あのォ、やっぱり風俗の女性は、ふつうの結婚対象にはならないのですか?」
と問い掛けました。
「そんなことはないよ。恋愛すれば、同じなんじゃないの?」
コヌレ君が常識的見解を述べました。
「いやァ、田舎の親とか親戚が何をいうか分からないから、俺らは玄人の女とは一緒
になれない。
それに、今俺らが好きなのはサヨリちゃんなんだから、頼むから玄人の話なんぞし
ないでくれよ。頭が混乱しちまう……」
このコリさんのぼやきを聞いて、コオロギさんはちょっと悲しそうな顔をしました。
そのとき歌で盛り上がっていた一階から、
「もう帰るのか!タクシー代を出すから、もうちょっといてよォ〜〜」
といういつものコダマさんの嘆願の声が聞こえてきましたが、
「終電で帰る、て言ってありますし、明日も仕事がありますから…」
というナツメちゃんの断ち切るような返事に、
「僕だって、朝早い仕事がある」というコダマさん得意の言いすがりも空しく、ぞろ
ぞろとみんな引き上げる様子です。
「あ〜あ、楽しかったのにな〜。上、どうなってるの?もう閉店するよ」
とぼやきつつ、一人になったコダマさんが二階に上がってきました。
「明日はサボらないの?」
皮肉っぽくコヌレ君が訊きますと、
「いや、明日は休む。こんな帰り方されたんじゃ、身が持たない」
「じゃ〜、もう少し飲んでていいだろ?」
というクコちゃんの頼みに、
「この面子じゃなあ」
と文句をたれながら、コダマさんは仲間に割って入りました。
「コリさん、もう酔っぱらって寝ているな。田舎じゃ夜が早いからなァ。
ところで、コオロギ。君は最近よく来るけど、この近くに住んでいるんだろう?君、
今何をやってるんだ?」
「ちょっとした仕事よ。朝は、早く起きて、この周りをお散歩するの」
コオロギさんは奇妙なことをいいました。
「お散歩だなんて。それにしては、荒れた肌をしてるじゃないか!
どうも、コオロギはどこか不潔な感じがする。ま、不潔といっても、汚い、て訳じ
ゃなくて、雰囲気がそうだ、ていう意味だけど。
コオロギは、確か九州出身だよな。九州の女は、僕の経験では、自己主張が激しい。
すぐ男が好きになって、僕の言うことも聞かずに恋愛してしまう。
それに比べて北海道の女は、優しい。辛抱づよく僕の言うことを聞き、包み込んで
くれる愛がある。惚れるなら、九州より北海道の女だ…」
奥さんのミホさんが北海道出身ということもあり、この強引な結論が引き出された
のですが、こんな愚見を聞かされる側は、全くたまったものではありません。
「またコダマさん得意の差別発言だな。地方色で差別しているくらいなら罪はないけ
ど、コダマさんは職業とか国籍のことで案外強烈に差別することがあるからな」
「僕がどこで差別した、ていうんだ、クコちゃん。僕が差別するなら、それは弱者と
しての差別だ。僕は弱者の側から差別することはある。でも、それは正しい差別なん
だ。僕ら貧乏人は弱いから、権利を守るために差別する。
これは差別なんかじゃない、連帯って言った方がいい。
クコちゃんはインテリだから、こういう僕らの気持ちは分からないだろう」
「そんな内面的なことじゃなくて、もっとあからさまな朝鮮人とか風俗関係とかの差
別について言ってるんだけど、なァ」
「僕は、差別なんかしないぞ。たとえコオロギが風俗関係であっても、僕はそのこと
を責めている訳じゃない。僕は、あいまいなのが嫌なんだ。僕は店にくる人間のこと
は、何でも知っていなければ不安なんだ。
コオロギ、僕は君が風俗関係であっても、それで君を非難したりはしないから、正
直に言ったらどうだ」
私は、本人の言いたくないことを無理やり言わせる無神経さに与したくはありませ
ん。
クコちゃんは結構がさつなタイプなのでどうだか分かりませんが、コヌレ君は相手
の心の傷に対してナイーブな応対ができる人なので、深夜の追求鬼と化したコダマさ
んを諌める一言を期待しました。
「コダマさん、彼女は自分のことを何とも言っていないのだから、そういう決め付け
は失礼だよ」
「間違っていたら、あやまる。でも、ここまで言ってしまったのだから、僕はコオロ
ギの本当のことを知らなくちゃいけないんだ!」
するとコオロギさんはすっと立ち上がり、
「コダマさん。人って何にも聞かないで受け入れてくれるから、いいな、て思えるこ
ともあるのですよ。
あたし、言葉では言われなくても、やっぱりそういう目線で見られるとイヤになる
こともあるんですよ。
あたし、お仕事の場所で、風俗嬢だと差別されてもそうなんだから全然悔しくあり
ません。だけど、プライベートでいるときにそういう風に見られる目線は耐えられな
いものなんですよ。
あたし、やっぱり自由に来られる場所が欲しかったな。
コダマさん。いくらですか?あたし、もう帰りますから…」
そういって、千五百円をテーブルの上に置き彼女は出ていきました。
コダマさんの方を見ると、やや茫然として自分の追求の結果を反芻していましたが、
「やっぱり彼女は、この店のカラーに合わないッ」
と勝手に結論を出し、
「僕の推測が当っていたろう、クコちゃん!この店には彼女に合う男はいないしなァ」
と見当外れの言葉で、自分の誕生日の総括をしたのでした。
![]() ↑ 夏場は2階のテーブル席、冬場は3階の炬燵で宴会なのです。 |
![]() ↑床で 仮眠をむとるコダマ氏…復活したときの元気印に客たちはいつも戦々恐々…か…!? |